第10話
三田さん、仕事辞めるってよ
件名:「三田さんを送る会」のお知らせ
そのメールの件名だけで、幸子はフリーズしてしまった。
三田さんが辞める?!
幸子と同じ部署ではたらく派遣社員で、幸子を赤坂氏から救ってくれた神こと三田さんが辞める。
幸子は慌ててイスごと振り返り、三田さんの背中に声をかけた。
「この部署も来月で3年満期になるし、ダンナも海外転勤になるかもって言うので
タイミングかな、と思いまして・・・」
さまざまな意味で衝撃を受ける幸子をよそに、三田さんは、内さんとは短い間でしたが、と軽く頭を下げ、
再びエクセルを操りはじめた。相変わらずの神スピードで。
「三田さん、この部署に来る前はマーケにいたって聞いたことあるわ。
その前もB&Sの別部署にいたみたい。元はプログラマーさんだったとかで・・・」
その日のランチ、何気に情報通のフミさんから話を聞きつつ、幸子はボンヤリと考えた。
もし今のポジションでの契約が終わったら、私に次ってあるのかな?
ふと、そんな思いが頭をかすめ、幸子は薄ら寒くなった。
フミさんは、家庭との両立のために働き方をセーブしているけど、
結婚退職まで勤めていたという信用金庫で培った経験を強みに古巣に戻ることができるだろう。
エミリは帰国子女で英語がペラペラだし、三田さんのスキルは言うに及ばず。
・・・私の強みって、ナニ?
芝部長の丸投げも、赤坂氏のイミフメイメールも、
Tigerのセクハラもムチャ振りも、なんでも、とにかく無我夢中で対応はしている。
それは、間違いない。
だけど、このままでいいのかな?
幸子の胸に、次から次へと不安と疑問が押し寄せる。
「あらー?幸子ちゃん、今日お休み?」
フミさんが幸子のデスクが空席なのを見てつぶやいていたころ、幸子は日光にいた。
拝啓、フミさん。
幸子はいま、華厳の滝にきています。
自分の行く末を考えるために。